事務所だより

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未払い残業代の請求が突然やってきた。

2017.06.01

 近年、大手広告会社の過労自殺事件もあり、会社が未払い残業代を遡って支払うケースが急増しています。多くは労働基準監督署の調査・是正勧告を受けて、または弁護士を通じて請求されるケースの2通りあります。
 会社側は、給与に残業代分の色をつけている、残業代は〇〇手当に含まれていると本人も了解している、ウチの残業代は賞与に含まれている、年俸制だから残業代は払わなくともよい、課長には全て残業代はいらないといったことを言われます。いずれの言い分も法的な争い等になると会社側の主張ではまず負けます。
 全国展開している大手の法律事務所の中には、ネットを利用して簡単に未払い残業の請求ができる旨広告しています。働いている社員はさすがにそこまではすぐにやりませんが、人間関係がこじれて退職せざるを得ない結果となった社員は、気持ちがおさまらないので、こういったネット広告につられて手軽に請求してきます。会社はこのような請求文書が届いた段階で、初めて残業問題の重大さに気がつきます。現在、行政も残業問題には厳しい対応をしていますので、労働時間管理の整備を早々に進める必要があります。

ウチは10人未満だから就業規則はいらない?

2017.05.01

 毎年4月に就業規則を見直す会社が多いのですが、「ウチは10人未満しかいないので就業規則はいらない」と言われることがあります。確かに労働基準法により、常時10人以上の労働者を使用する場合は、就業規則を作成し、労働基準監督署に「届出る」義務があります。しかし規模が10人未満の使用者は、届出の義務がないからといって作成しなくてもよいとは言えません。
 たとえ1人でも労働者を使用すると、労働時間、労働日、賃金、定年などの多くのことを決める必要があります。これらを曖昧なままにしているとトラブルに発展します。また我が国の労働法制は、どちらかというと立場の弱い労働者を守るように出来ていますので、一旦ことが起きると、使用者側は不利な立場に追い込まれます。使用者を守る唯一の砦が会社のルールブックである就業規則です。
 近年、「私傷病による休職者を期間満了で退職してもらう」「トラブル社員を懲戒処分にする」などのことは就業規則に定めがないと行うことができません。就業規則を定めることは義務ではなく、むしろ積極的に作ることが経営上求められます。
 ただし作成した就業規則は、使用者の机の中にしまっておくのではなく、労働者に周知しなければ法的効果はありませんので注意してください。

同一労働同一賃金について

2017.04.01

 政府は昨年の12月に、働き方改革の一環として「同一労働同一賃金」のガイドライン案を公表しました。これは、欧州のように同じ業務を行う全ての労働者を同じ賃金すべきということではありません。合理的な理由のない賃金格差を禁止するというものです。
 日本の非正規労働者の賃金水準は正規労働者の六割弱になっており、諸外国に比べて格差が大きくなっています。今回公表されたガイドライン案は、正社員とパートタイマーなどの非正規労働者との間の賃金等格差がある場合(同一企業内で)、どのようなものが不合理かそうではないのかを、事例等により示したものです。
 もちろんこのような格差は、現在の法律でも禁止されています。ただ、具体的にどのような場合が違法なのか明確に示されたものがなかったので、今回のガイドライン案で分かりやすく説明されました。
 なお今回はガイドライン「案」ですが、今後、法改正となれば「案」がとれて正式なものとなります。改正法に合わせて企業側が賃金制度等の改正を行うとしても、相当の時間がかかりますので、早めの検討を始めることが必要となります。

残業規制の労基法が改正されます。

2017.03.01

 政府は、時間外労働時間の規制があいまいな現行の労働基準法を改正し、2017年中に改正法案を国会に提出する方向です。ポイントは次の通りです。

 ①時間外労働の原則的上限が法定化される。
現行の時間外労働の限度時間である、1か月45時間、1年間360時間は変更ないのですが、これが法律条文に明記されます。
 ②特別条項が改正される。
特別条項が1年間のうち6回まで使える点は変更ありません。ただし、特別条項を用いた場合、原則1か月100時間を超える時間外労働は禁止となります。さらに1年間の上限時間は720時間となり、時間外労働の上限は、1か月平均で60時間となります。

 なお、経営者の方に、1年間720時間(つまり60時間の12か月分)さえ守ればいいということで、1か月60時間までは残業させていいといった誤解があります。あくまでも1か月のうち残業時間が45時間を超えてよいというのは、1年間のうち半年までです。
 昨年の大手企業による過労死事件もあり、最近道内企業に対しても、労働基準監督署による調査、指導、是正勧告が頻繁に行われています。法改正前に社内体制の見直しをお勧めします。

マタハラって何?

2017.02.01

 平成29年1月より改正育児介護休業法が施行され、マタハラ防止措置を講じることを事業主に義務付けられました。「マタハラ」とは、マタニティハラスメントの略で、働く女性が妊娠・出産・育児をきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、妊娠・出産・育児などを理由とした解雇や雇い止め、自主退職の強要で不利益を被ったりするなどの不当な扱いを意味する言葉です。
 法律では事業主がポスターや社内研修等で社内に周知させたり、相談窓口を設置したりして、上司や同僚によるマタハラ行為を防止しなければなりません。
 どのような行動がマタハラになるのでしょうか。厚労省の指針によると、産前休業の取得を上司に相談したら、「休みをとるなら辞めてもらう」とか、時間外労働の免除について相談したら、「次の査定では昇進しないと思え」などの言動。育児や介護休業を相談したら、「自分なら取得しない」とあきらめさせたり、「そんな人に大した仕事はさせられない」という言動。上司に妊娠を報告したら、「他の人を雇うので早めに辞めてもらいたい」、「妊婦はいつ休むかわからないから仕事は任せられない」などの言動があります。
 育児介護休業規程の改正はもとより、こうした言動を無くす取組みが必要となります。

定年後再雇用者の賃金問題

2017.01.01

 今年の5月に定年後再雇用されてトラック運転手を務める有期雇用契約の嘱託社員が、定年後給料が下がったことに不満を持ち、会社を訴えました(長澤運輸事件)。東京地裁では、嘱託社員と正社員の賃金格差が労働契約法20条に違反していると判断し会社側が敗訴しました。しかし11月2日東京高裁で「賃金格差が不合理であるとは認められない」と判断し、会社側が逆転勝訴しました。
 この事件で取り上げられた労働契約法第20条は、同じ会社で働く有期雇用労働者と、正社員の賃金などの労働条件が異なる場合、(1)労働者の業務内容とその責任の程度(2)職務の内容と配置の変更の範囲(3)その他の事情─の3要件を考慮した上で、(労働条件の相違が)不合理と認められるものであってはならない、と定めています。東京地裁は、3要件のうち(1)(2)が同じなら、正当化すべき特段の事情がない限り、処遇の差を違法としました。しかし東京高裁は、上記3要件のうち(1)(2)が同じだと認めた上で、(3)その他の事情の判断で、定年後再雇用の賃金引き下げが世間で広く行われていること、賃金引き下げ幅がおおむね2割減で、大きくないことなどを考慮して、「嘱託社員と正社員との賃金格差は不合理なものとはいえない」と判断しました。
 今後嘱託社員の労働条件を決める場合は、職種・地域を限定する、「大幅」な賃金減額は避ける、業務内容・責任の大きさを正社員と区別し明確にしておく等の対策が必要です。

残業時間と健康障害の関連性とは

2016.12.01

 ある上場企業の新入社員が過労自殺し、労災認定された事件で、違法な長時間労働の問題がクローズアップされています。現在の労働行政では、過労死認定ラインは月80時間の残業とされ、健康障害発症1ヶ月前は月100時間以上が危険水域とされています。ではこの基準はどのように作られたものなのでしょうか。
 労働時間と健康には一定の関連性があります。1日24時間から一般的な生活に必要な時間14時間(労働時間8時間、通勤1時間、食事や風呂・団らん等4時間、昼休み1時間)を差し引くと残りは10時間になります。この10時間から1日残業を2時間行うと、睡眠は8時間となります。医師等による調査では、この残業時間の水準では脳・心臓疾患発症などの健康障害のリスクはありません。1日2時間の残業は月に直すと45時間程度です。ところが残業が1日3時間以上になると健康障害の発症リスクは増え、4時間(月80時間)では睡眠時間が6時間となり、健康障害の発症リスクが特に高まります。さらに、1日5時間(月100時間)になると睡眠時間が5時間しか取れない日が続き危険な状態となります。
 このように80時間以上も残業すると、睡眠時間が削られ、その結果健康に様々な障害を引き起こす原因となるのです。そのため法令上の時間外労働の上限を45時間としています。

日本の休日って少ない?

2016.11.01

 今年の8月に山の日が祝日となり、また従業員に年5日の年次有給休暇を取得させる義務を企業に課す法律案が出てきています。日本人は働き過ぎで、休みが少ない国民なのでしょうか。
 日本には、現在1年間のうち16日祝日があります。さらにお盆休み3日や、年末年始休暇5日を加えると24日休みのある会社が多いです。それに加えて平均有給休暇取得日数10日を加えると34日になります。この34日は諸外国と比較すると世界第6位です(1位はスペイン44日)。意外に多い方です。
 また現在国は、有給休暇取得率50%を70%にしようとしています。すると有給休暇10日から14日になり休日は38日となります。週休2日制の会社では土日が休みですから、年間土日数105日を加えると143日になります。1年間365日のうち約4割は休んでいる計算になります。
 休みを従業員に多く取らせるのはいいのですが、一方で労働日数が少なる分、給与を引き下げることは難しいのが現状です。従って、業務の見直し等により労働生産性を引き上げるとか、会社で定める所定休日を増やさないといった対応が必要となります。

入社1ヶ月で産休・育休を請求された。

2016.10.01

 従業員20名の中小企業で、ベテランの経理担当の女性社員が退職したため、新たに新人A子さんを採用しました。この方は35歳の既婚女性です。お子さんはいなくて、ご主人と2人暮らしです。入社後、1ヶ月たって社長に相談がありました。A子さんは妊娠したらしく、初めての子供なので出産し、仕事も続けたいという意向です。社長は、会社がこれから大変忙しくなる時期だし、子供を出産して働き続けることができるか心配でしたので、辞めてもらって別な人を探したいという気持ちです。その旨をA子さんに伝えたところ、「法的には出産予定日の6週間前から、出産後は8週間の産前産後休業が取れます。さらに最長子が1歳6ヶ月になるまで育児休業も取れます。」と言われました。社長は、「確か育児休業は、勤続1年未満の場合は適用除外のはずだが」と反論しました。するとA子さんは、「勤続1年未満の従業員を育児休業の適用除外にするには労使協定の適用が必要です。その労使協定書を見せてください。」と言いました。しかし、この会社には労使協定書も育児休業規程もありませんでした。
 たとえ勤続1年未満の労働者から育児休業の申し出があっても、労使協定を結んでいれば適用除外が可能ですが、結んでいなければ申し出に応えなければなりません。育児休業等の法の精神を尊重しつつも、中小零細企業に過度の負担がかかることのないよう法律に基づいた労使協定を結んでおく必要があります。

出張時の早朝出発や深夜帰宅は残業になる?

2016.09.01

 営業社員が地方への出張のために、朝早く出発したり、帰りが深夜になることがあります。その場合の移動時間は残業として割増賃金を支払う必要があるのでしょうか。
 労働基準法には、労働時間の内容を細かく定義していません。一般的には「使用者の指揮監督下にある時間」や「待機時間」であれば労働時間となりますが、原則として、出張先に向かう移動時間は通勤時間と同様で、労働時間とはいえないと解されています。もちろん出張先で法定労働時間を超えて労働すると、時間外労働として割増賃金が発生しますが、移動のため早朝や深夜になっても、それは時間外労働にあたらず、割増賃金も発生しません。同じように休日明けの朝一番に地方で仕事があるため、休日に移動したとしてもその移動時間は労働時間とはなりません。
 移動時間中に物品等の管理を命じるなどすれば別ですが、移動時間中は労働しているわけではないからです。ただ、移動中は労働ではなくとも行動の制約を受けますので、会社が出張の距離や所要時間などに応じて「手当」や「日当」を支給するのは自由です。また所定労働時間内に移動するのであれば、その間の賃金を会社は支払う義務があります。

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